それは突然のことでした。
ベルギーはブルッセルの子猫、チョコは庭で遊んでいるとき、突然胸苦しさを感じた後、意識が遠くなっていきました。
体がふわっと浮いていき、そのまますっと空に上っていきます。
気がつくと、きれいなお花畑の中でした。
色とりどりの草花が、チョコの目を楽しませてくれます。
「きれいだニャ~」と風景に見とれていると、チョコのピンクの鼻に、綺麗なモンシロチョウがとまりました。
「ふに?」思わずより目になって、ピクンと鼻が動いた瞬間、モンシロチョウは上空に舞い上がっていきます。
チョコは夢中になって上を向いて追いかけます。
しばらくほろほろ歩いていくと、突然何かにぶつかりました。
「ふにゃ」と見上げると、ボッティチェリの絵画「春」から出てきたような、きれいな女性が立っていました。
長い髪を花輪で飾り、ひらひらのドレスを着ています。
「綺麗な人なのにゃ~」
チョコはうっとりして赤面します。
彼女はチョコを見て、「あなたがチョコくんですね。私はマリアといいます。天国へようこそ」と話しかけてきました。
「ここが天国にゃのか。どうりできれいなはずだにゃ」とチョコは納得しました。
マリアさまは続けます。
「チョコくんがここに来たのは理由があります。あなたには大切な使命を果たしてもらいます。チョコくん、あなたはガーゴイルって知っているかしら?」
ガーゴイルというのは、ゴシック大聖堂の上部に飾ってある、怪物などの彫像のことです。
チョコはブリュッセルで見たことがあったので「ふにゃ」と答えました。
とすると、マリアさまはチョコに向かい「あなたにガーゴイルになってほしいの」と言ってきました。
チョコはそれを聞いて、どきっとしました。
「ぼぼ、ぼくはオトコマエな猫だから、ガーゴイルにはなれないのにゃ」
チョコはあわてて反論します。
あわてている姿を見て、マリアさまはにこやかに言いました。
「いやいや、チョコくんはガーゴイルみたいに恐ろしい姿にならなくてもいいのよ」
チョコはほっとします。そしてマリアさまは続けます。
「ガーゴイルは、大聖堂の上から町のみんなを見守っているの。つまりある種の町の守り神ってわけ。チョコくんも、この天国の上から、地球のみんなを見守ってほしいの」
マリアさまの話を聞いて、チョコくんの目が輝いてきました。
「わかったのにゃ。ぼくは頑張るのニャ!」と胸を張って答えます。
その様子を見てマリアさまも嬉しそうです。
「でも・・・」チョコはマリアさまを真剣な瞳で見つめながら言います。
「チョコくん、何かあるの?遠慮なく言っていいのよ」とマリアさまは尋ねます。
「それでは・・・、お昼寝をする時間はあるかにゃ?」とチョコ
マリアさまは、ずでっとコケてしまいました。
「あ、お昼寝は大丈夫よ・・・いてて」
マリアさまはぶつけたところをさすりながら答えるのでした・・・。