ドスン!と落ちる衝撃で、スマイリーは我に帰ったような気がしました。
自分の周りに人の気配を感じます。
恐る恐る涙目を開けると、見慣れたFちゃん夫婦の顔、妹猫のハッピー、そして知らない白衣のおじさんが自分を心配そうに見つめていました。
「ふにゃん!」思わずFちゃんの胸に飛び込みます。
「スマイリー、どうしたの、大丈夫?」、Fちゃんがびっくりして話しかけます。
怖い目にあった後だったので、必死でにゃーにゃーとしがみつくスマイリーでした。
最初はみんな唖然としていましたが、あまりのスマイリーの怖がりように次第にみんなが笑い出しました。
それに気付くと、スマイリーはばつ悪そうにFちゃんから離れるのでした。
「どうやら目が覚めたようだね」知らないおじさんがつぶやきます。
「大聖堂の前で激しい光を浴びて、一種のショック状態のようになってしまっていたね。こちらに運ばれてからは時々もぐもぐ口を動かしつつも安静にしていたが、目の覚める直前に激しく痙攣していたね。へんな夢でも見たのかな?」
どうやらそのおじさんは獣医さんのようです。そしてここはアミアンの動物病院のようです。
スマイリーは冷静になって自分の体を見渡します。前と同じ小太りのままです。
またそっと病院の鏡を覗いてみますが背中に何も変化ありません。
結局、スマイリーにとっては数日に感じたことが、実際は一晩の夢に過ぎなかったようです。
スマイリーは体の簡単なチェックをしてもらい、特に異常なかったので、すぐに退院できました。
駅への道すがら、大聖堂の前に立ち寄ります。
ファサードを見ると、スマイリーが夢で見た、細面のマリア様もそこにいました。
もちろん、スマイリーを叱ったときのようなお顔ではなく、やさしい表情をしていました。
思わずスマイリーはじっと見つめます。
とすると、スマイリーに向かってニコッと笑い、ウインクしてきました。
「ぎゃ!」と思わずスマイリーは驚き、Fちゃん夫婦やハッピーを見ましたが、特に何も気づいてないようでした。
もう一度おそるおそるじっくりとマリア様のお顔を見ますが、やっぱり動きのない彫像そのものでした。
「マリア様に叱られないように、少しはダイエットしなくちゃだめかニャ」と、スマイリーは自分の丸っこい背中をそっと振り返り見しながら思うのでした・・・。
(完)