悪徳と策謀の一族
マリオン・ジョンソン 著
海保真夫 訳
中央公論社
昭和59年11月25日 初版発行
原題は、「ボルジア家」のみ。日本語の副題で「悪徳と策謀の一族」としているが、この著者の方は、従来のボルジア家のイメージに囚われることなく、冷徹に著述を進めているため、副題としてはあまり適当でないと感じる。その点は、訳者の方によるあとがきにより、ちゃんとフォローはされている。
マキアヴェッリやグウィッチチャルディーニなどからの引用も多く、塩野七生さんの本を愛読してきた自分にとっても馴染み深い。
もちろん、ボルジア家は、あくまで陰謀と策略と堕落の家系として見られるのは否めない。
しかし当時のローマ中心の欧州社会において、スペイン出身というハンディ、また反対派というか、権力のおこぼれにあずかれなかった人々による、誇張されたゴシップ(そういうのほど面白いので後世に残ってしまう)、そして当時のイタリアの乱世ゆえの乱れた社会、これらの背景も考慮に入れなければならない。
ボルジア家出身の法王だけでなく、当時の法王の堕落振りは目に余るものがあった。サヴォナローラやルターの出現が、ごく自然な歴史的な流れだと納得してしまう。
ボルジア家に咲いた一輪の花、というべきルクレツィア。政略結婚の道具にされたり、醜聞の対象になってしまうが、後半生は慈善事業などにより、一般の人々にも尊敬される存在になる。
(表紙はヴァチカンのボルジアの間にある「聖女カタリナの論争」です。椅子に座っているマクシミヌス皇帝が、かのチェーザレ・ボルジアで、カタリナはルクレツィアがモデルと言われているそうです。)