アーティストたちとの秋⑤

 アーティストの人たちの空いている時間は大概買い物に行っているようだ。必ずしも、当地のみやげ物というわけではなく、普通のデパートや、衣料品店などで買いだししていたようだ。
 「キモノがほしい」と言っていた人もいたようで、それを聞いた日本人関係者が「本格的な着物だったら大変だな」と心配していたが、おそらく寝巻き代わりに着るようなものではないかと思われる。

 リハーサルが終わった後、日本人のアーティストの方には、「おつかれさま」と声をかけたが、外国人の方にはどう言ったらいいのだろう、と考えてしまう。「エクセレント!」や「マニフィック!」などでいいのだろうか。
 逆に、リハーサル後ステージからフランス人の方が出てきたとき、ぼくに「サヴァ」と声をかけてくれたが、どう答えたらいいのかわからず、ただ、にこっと微笑を返しただけだった。教科書では「サヴァ ビアン メルシー エ ヴ?」と習ったが、それもこの場では少し変な気がする。「サヴァ ビアン メルシー」くらいでいいのかもしれないが、こちらはただ待っているだけなので、それが本当に適当な言い方なのかよくわからない。
 宇多田ヒカルさんの「ぼくはくま」の中で、まくまくんはフランス語で自己紹介していた。ぼくよりフランス語の上手な、まくまくんなら、どう答えるのだろう。

 などなどありながら、リハーサルの音を聞きながら待機していると、先にリハを済ませた二人が、一旦ホテルに帰りたいとのこと。再びタクシーを呼び、ホテルまで送迎する。夕食会があるので、フロア集合の時間を伝えておく。
 そしてぼくは、夕食会の出発の時間まで、ひとまずホテルで待機する。アーティストの方に何かあれば、またついていったり、通訳の真似事をしなければならない。
 待っている間、ほかのスタッフの人と、いろいろ話をする。今日の夕食会は庵のあるところで、うどんすきと焼肉とのこと。ちなみに前日の夜は、とんこつラーメンを食べに行ったとのことだった。これも特に問題は無かったらしい。
 それでもスタッフの方は、今後の食事場所について、すし店のリストを見ながら、どこがいいか思案していた。

 結局夕食会の出発まで何も無く、待機しているだけだった。
 夕食会までは同行しなくてよかったので、日本人関係者とアーティストの方がホテルを出るのを見送り、今日の仕事を終える。