アーティストたちとの秋④ 昼餐と行方不明のアーティスト

 昼食の時間が来たので、一旦会場を後にして、昼食会場に行く。タクシーを何台か呼び、分乗していく。
 和風庭園の見える、小奇麗な和食レストランで、アナゴご飯に温かい麺類だったが、みんな抵抗無く食べている。
 昔多くの外国人を日本に招待する仕事を手伝ったときは、食事はバイキング形式が主だった。ベジタリアンの人も多く、自分で好き勝手に選べるような様式にせざるを得ない。もちろんこのようなアーティストの中にはベジタリアンの人も、あるいはベジタリアンになりたい人、もいるに違いないが、世界各国を回っていると、どうしてもそのような食生活は弊害となり、何でも食べるようになるのだろう。
 食事の途中で、午前中ホテルで休んでいた人や、今日の朝に日本に着いたアーティストも合流し、ヤアヤアヤアと再会を祝う声で、更に賑やかになる。
 するとまもなく、早めに食事を終えていた二人が、先にリハーサルを行うとのこと。食事代の支払い等は他のスタッフに頼み、ぼくがタクシーで再び随行する。
 ちょうどレストランを出るとき、小雨が降っていたので、反射的にあわてて傘を持っていったが、彼らには特に必要なさそうだった。そういえばヨーロッパ人は、雨降りのときでも傘なしで結構平気で歩いていたのを思い出し、傘をわざわざ持ってこなくてよかった、と少し後悔する。
 
 リハーサル会場に戻る。大体2時間くらいで、それぞれ三重奏や四重奏などに分かれてリハーサルを行っていた。みんな当然自分のリハの時間は把握していたと思ったのだが、一度こんなことがあった。
 ステージに3人入っていたが、どうもリハーサルを始める感じがしない。しばらくして中から一人出てきて、ぼくに「ドミニク(仮名)さんはどこに行ったんだ!」と聞いてくる。そのドミニクさんは前のリハが終わった後、さっと目の前を通り過ぎる姿は見ている。「探してきます」と答え、とりあえず会場の入り口にいるほかのスタッフに「ドミニクさんは帰ってしまったのか」と聞くが、そんなことは無いという。仕方なくスタッフ何人かで会場内を探し回る。別の練習部屋に行ってみても真っ暗で誰もいないようだった。
 しばらくして「見つかったよ」とのこと。実はぼくが通り過ぎた真っ暗な部屋の中にいたらしい。精神を集中していたのか、あるいは寝ていたのか?