アーティストたちとの秋③ ファーストコンタクト

そんなこんなでたいした準備もせずに、当日を迎えることとなった。ぼくの受け持ち日は、コンサート自体が始まる前の二日間となっている。
 まず一日目の朝、アーティストが滞在しているホテルに向かう。もうすでに5~6人は、前日に来日して、このホテルに泊まっている。ホテルのロビーで、担当者の方から、スケジュール表を見ながら、今日の予定を聞く。
 まずホテルから、一旦練習会場に皆さんを連れて行く。リハーサル後、昼食会場に連れて行き、そこでこの日に来日したアーティストの人と合流する。そしてまた午後も練習、というスケジュールである。
 一日中全員が練習しているわけでもないので、アーティストの希望があれば、臨機応変にそれについて行ってほしい、との事だった。

 1時間ほどして、フロアにアーティストの方が集まりだす。日本人のアーティストの方には、型どおり名刺を渡した。フランス人の方とは、少しだけ下手なフランス語でしゃべってみる。すぐにタクシーに乗らなければいけない状態だったので、あまり話もできず残念だったが、なぜか後でほかの人に「えらい盛り上がっていましたね」と言われた。

 タクシーに分乗し、リハーサル場所に向かう。少し雨が降っていたので、ぼくは何本かの傘を束ねて、よっこらしょと持っていく。
 リハーサル会場に到着。ぼくがその場所に入るのは、今回が初めてだったことに気付く。このことからも、いかに自分がクラッシック音楽に縁が無かったが身にしみて感じる。入り口から廊下を進み、地下に降りる。階段を下りたところに、少し広いスペースがあり、そこで職員は待機する。そのスペースを挟んで舞台と控え室があり、アーティストたちは基本的にその二箇所を往復する。控え室にはサンドウィッチなどの軽食と、ミネラルウオーターを備え付けていた。
 廊下のようなスペースからは、ステージ管理者用のために、舞台の様子が見える小さな窓がある。また完全な防音ではなく、音も聞こえてくる。直接音だけでなく、小さなモニター用のスピーカーを通しても、音が通じるしくみになっていた。

 準備もそこそこに、ステージから調子よく音が聞こえてくる。こちらに集合してから、本番までほとんど時間はないが、もともと上手な人たちなので、自分のパートはばっちりで、後は呼吸あわせのような感じなのだろうか。笑い声なども聞こえてくるが、決めるところは既にちゃんと決めてくれている。それが心地よい。