シャムロックの大地 さよなら(アイルランド最後の日)

とうとうアイルランドを離れる日が来た。
ホテルをチェックアウトし、駅に向かう。ゴールウェイへの行きはバスだったので、ダブリンへ戻る時は電車に乗ろうと決めていた。
到着した時、すでにホームでズラッと長い列が出来ている。後について並ぶ。
しばらくして、ふと少し後ろを見ると、3人の日本人と思われる、東洋人の女の子がいた。
電車が来たので乗り込む。その子たちが自分の席に来ないかと淡い希望を抱いたが、残念ながら姿さえも見失っていた。
いよいよ動きはじめる。最初は感覚として更に西の、海の方に向かっているような錯覚にとらわれる。
曇った中、アイルランドを縦断し、ダブリンに向かう。ほとんど自然の中だ。
駅に止まる。当たり前のことながら、そこで降り、また乗ってくる人がいる。自分のようにただの旅人ではなく、毎日の生活で電車を利用している人がほとんどなのだ。ふとなにげない生活観がよみがえる。
いよいよダブリンのヒューストン駅に着く。まだ時間はありそうだ。駅のレストランは、天井の高い、木造だったような気がする。最後の昼餐とばかり、サーモンなんぞを食べる。
雨の中、駅前から空港行きのバスに乗る。予定だと十分間に合うはずだ。
リフィ川沿いの道を進む。しかし渋滞でなかなか進まない。
アイルランドホッケーの試合があり、そのスタジアムに向かっているファンたちが渋滞の元凶のようだ。アイルランドのホッケーやラグビーの試合を見たが、なかなか迫力があり面白い。ゴールがサッカーとラグビーのそれを組み合わせたようになっている。激しい動きの中、玉を派手に上空に飛ばしたりする。けが人がかなり多いのではないかと不安にもなった。
見慣れた街を、ゆっくりと進んでいく。少し焦る。
なんとか市街を抜け出し、郊外の自動車道を通り、無事間に合う。
チェックインを済ませ、搭乗口のところを確認し、空港内で買い物をしようかと思っていると、メアリー・ロビンソン大統領のような年配の女性に声を掛けられる。
パリ暮らしの悲しい習性で、こういうのには神経質になっていたので、最初はそっけなくしかけたが、よく聞いてみると、アイルランド観光庁のアンケートだったのだ。
まず「フランス語か英語かどちらがいいか」と聞かれる。仏語に自信がないため、残念ながら英語と答える。
何人かと聞かれ、日本人だと答えると、「私の息子が日本人女性と結婚してね~」と言ってきた。
アイルランドの感想を聞かれ、「とてもとてもよかったです。」と答えると、にこーと笑ってくれた。
いくつか質問をその場で答え、「後はこれで返事してください」と封筒とアンケート用紙を渡された。
記念品として、シャムロックの模様が入った、ボールペンを受け取る。
パリでこのペンを使っていたが、日本に帰るとき無くしたかも知れない。でもひょとしたら、スーツケースのすみっことかにひっかかったままかもしれない。
またそれに出会えたら、今まで書いてきたのとは違った、また別の、緑のくに、アイルランドの思い出がよみがえってくる気がしている。