フィレンツェ貴族からの招待状

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フィレンツェ貴族からの招待状
山下史路 著
1998年9月20日 第1刷
文藝春秋

最初題名で「貴族」とあったので、自分のような庶民としては少し抵抗があったのだが、読み進めて見ると、どんどん面白くなってきた。
それもそのはずで、品の無いセレブ自慢ではなく、著者の方のインタヴュー及び解説を通して、各名家の現代、そして過去を理解する事ができるからだ。それぞれの歴史が、フィレンツェやイタリアの歴史にも直結しているのだ。
そして現代、貴族の子孫がどう生きていくかは、やはり難しい面もある。ただの有閑階級なんてやっていたら、たちまち没落してしまうのだろう。
インタヴューに答えていた人たちは、名家としての誇りと品性を保ちつつ、仕事や社会活動で忙しそうな人々が殆どであった。
もちろん、ヴァカンスの時は豪華に楽しんでいるのだろうけど。

それぞれの家系がに興味深い話があるのだが、その中ではデッラ・ゲラルデスカ家の話が一番興味深かった。
この家の先祖は、ダンテの「神曲」に登場しているほどの、古くからの名家である。
しかし、その登場場所が、地獄編であり、なおかつ残酷な話と共に語られているのである。
神曲」は日本ではそう馴染みは無いが、イタリアではずっと国民文学として親しまれ、今でも学校で必ず勉強するものらしい。
神曲」の魅力の一つとして、地獄にて人間のドロドロとしたものを表現し、煉獄、天国でどんどん浄化されていくという流れ、があると思うが、ダンテの個人的な憎悪の対象として、悪く書かれた人々とその子孫にとってはいい迷惑である。
現代の感覚では名誉毀損に相当するものと思われるが、今更どうしようにもいかない。
当主の方は、ゲラルデスカ家の歴史を執筆しているそうだが、そのような不名誉を少しでもなくそうという努力のようだ。

その他断絶したはずのメディチ家の血をひく人や、マキアヴェッリの友人の歴史家を輩出したグイッチャルディーニ家などのエピソードも興味深かった。