地獄のマキアヴェッリ

地獄のマキアヴェッリ
セバスティアン・デ・グラツィア著
田中治男 訳
法政大学出版局
1996年1月17日 初版第1刷発行

「地獄のマキアヴェッリ」などと大層な名前がついているが、「地獄から逃れるためには、地獄へ行く道を熟知する事です」という有名なマキアヴェッリの言葉あたりから来ているのであって、内容自体は、ごく普通のマキアヴェッリに関する研究本である。
著者は、名前だけ見るとイタリア人のようだが、経歴にはシカゴ大学出身の政治学者とあり、英語の論文である事から、おそらくイタリア系アメリカ人なんだろうと思われる。
そしてフィレンツェ大学客員教授として、毎年のように同市に滞在したとのこと。
君主論や戦略論などからだけでなく、マキアヴェッリ作の喜劇「マンドラーゴラ」や、書簡のふざけた部分からも、何らかの意味を真面目に探し出し、評論していた。
例えば、マキアヴェッリの非公式な書簡の中にある、ひどい売春婦にあったという、ふざけた経験談なども、実直に考慮していた。
塩野先生の「わが友マキアヴェッリ」を愛読しているものとしては、そのようなふざけた部分は、あくまでマキアヴェッリのお茶目な人間性、つまり彼の高尚な部分だけでなく、人間味を出すために上手く使われていたが、この本では、そういう面も含めて真剣に論述しているため、少し違和感があった。
やはり作家と学者の違い、またキリスト教に対するスタンスの違いなどがあるのだろう。
もちろん、それはそれで一つの見方であり、新たな視点としては面白く感じる所もあった。
マキアヴェッリの財産の内容や、君主論などを生み出した部屋の見取り図なども参考になった。