ローマ皇帝の「頑張れ自分」

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自省録
マルクス・アウレーリウス 著
神谷美恵子 訳
ワイド版 岩波文庫
1991年12月5日 第1刷発行

ローマ皇帝マルクス・アウレーリウスによるこの作品。
最近読売新聞の「本のソムリエ」というコーナーで取り上げていた。
「職を模索の息子に指針を」という親御さんの問いに、この本を推薦していたのだ。
しかし、この点では、自分の考えとは少し違うと感じてしまった。

もともと、マルクス・アウレーリウス(ローマ人の物語ではアウレリウスと表記)は若い頃から、皇帝への教育を受けたものの、決して権力への欲があった訳ではなかった。
思慮深い性格。皇帝なんかよりも、哲学者になり、空理空論に日を過ごしている方が幸せだ、というような人だった。
この点、カエサルとは対称的である。
カエサルは、本宮ひろ志の劇画の主人公の如く、元気よく、楽しげに目標に突き進んでいく人だった。
カエサルの著作「ガリア戦記」を読んで見ても、自分を売り込み、正当化するため、労をいとわず、愉快に進んでいく人だった。

マルクス・アウレーリスの治世は、領土拡大ではなく、帝国の防衛に明け暮れる日々だった。
この本でも、少なくとも最初の二章は、ドナウ河近くで、ゲルマン人たちの間で記す、と書かれている。
しかし本の中では、その戦いの模様はほとんど描かれない。
それよりも、哲学的に、内面から自分を励ますような言葉が続く。
最前線で防衛戦争に苦労している自分の心を励まし、なおかつ逃げ場を作っているかのようだ。

現代人に置き換えてみると、職を探している人より、現実の中にどっぷり浸かりこみ、そこで格闘している人に対するメッセージの方が強いように思える。
哲学的に、短いパッセージの中で「頑張れ自分」と繰り返しているのが、胸に響いてくる。

(写真はマルクス・アウレーリウスの騎馬像です)