バス内に響くイチ、ニ、サン(アルコバサへ)

バスはオビドスを出て、一路アルコバサに向かう。
ここでは、サンタ・マリア修道院を見学する。
ここはペドロ1世とその侍女であり愛人でもあったイネスの石棺で知られている。
ペドロ1世(王子)の政略結婚のためには、イネスの存在が王国にとって邪魔になり、王と家臣は彼女を殺してしまう。
その後王位についたペドロ1世は、イネスの殺人に関わったものをすべて殺したらしい。
このような悲恋物語なのだが、関わった人の中には役目上やむをえなかった人もいたのではないか。そういう人にとっても、まさしく悲劇だったと思う。
正面はバロック風である。内部は天井が高くなっており、窓から外光が入るのみであり、特にステンドグラスなどは無い様だった。
ここでは日本人のツアーに出会う。ここまで頑張って日本人が来ているんだと思うと同時に、なんとなく自分が一外国人で、日本人を客観視しているような、変な気になる。

再びバスに乗り、アルコバサを離れる。
このとき、バスの後ろの方から子供の声で、日本語の数字を読む声が聞こえてきた。
いち、に、さん、し、などと言っている。十くらいまで言っていたようだ。もちろん日本人ではない。
また、日本人である自分に向かって言っているわけでもないようだ。
わざわざ席の後ろに行って、確認する気もおこらなかった。
その時は日本のアニメの影響かなと思ったが、最近読んだ村上春樹のトルコ旅行記で、辺境のトルコの軍事基地で、兵士が日本語の数字を言っていたので、なぜ知っているのか尋ねた、というエピソードが出ていた。
答えは、その兵士が空手を習っていたためとのことだった。
なるほど、その子供も空手などの武道を習っていたのかもしれない。暇つぶしに、家族の前でその成果を披露していたのかもしれない。ヨーロッパでも、空手、柔道はもちろん、合気道なども知られている。

たどたどしい日本語を聞きながら、海辺の街、ナザレに向かう。