
西欧精神の探究 革新の12世紀 (下)
NHK ライブラリー
日本放送出版協会 発行
2001(平成13)年7月30日 第1刷発行
この書物は、昭和49年11月上旬から、同50年3月上旬にかけて録画・放映されたNHK「放送大学実験番組」の一つ、「西欧精神の探究」(中世)を元にしてできたものです。
父系性と母系性の片一方だけが強いという場合には、封建制度は一般に生まれないということが歴史的に明らかになっております。父系性と母系性が相競合するような関係にある、そういった血族集団の場合、人間はこの血族集団だけにも頼ることができない、という意味で封建制度ができてくるのであります。
一旦ヨーロッパに入ってまいりますと、ヨーロッパの中には、山はあっても越えられない山はない。もちろんアルプスは非常に高く峻険でありますが、その峻険な山々にも、いにしえから峠がいくつもあり、古来南北交通の要衝となっておりました。ブレンナー峠に至っては、1400m余にすぎません。それからフランスにはブルゴーニュ山地と呼ぶ広い山地がありますが、この山地にしましても自由に越えることができます。ピレネーだけは割合に峠が少なく、普通二つでありますが、その両側、特に東側は楽に通れます。従ってヨーロッパに山は少ないが、実はどれもこれもが、ひどく交通を妨げるものではなかったのです。
つまり、民族の移動が起こった場合、その移動は山や川に遮られたりすることが非常に少なかったということなのです。
(ハンニバルはアルプス越えでえらい苦労していましたが)
シャルルマーニュのヨーロッパつまり再興されたローマ帝国は、ヨーロッパの個別国家に歴史的に先行するということです。イギリス、フランス、ドイツなどの国々は、それらが集まってヨーロッパをなしているのではなく、ヨーロッパという歴史的先行条件があってはじめて各個の国々であり得たということです。これは中世を考える上で決定的に重要であるとともに、大戦後のECもこの歴史的事実に基づくことによってその存在を主張し得ることです。
ヨーロッパの封建関係が必ずしも国境に遮られたことがないのはむしろ当然だと言えます。
その中で、イギリスとフランスとの間にあった国際的封建関係は、中世ヨーロッパ史展開の主軸も考えられるものであります。
法王権は非常に強い 実質的な意味を持った封建関係を国際的に作り出すことになります。
こういった国際的な封建関係、そして法王との関係から生ずる忠誠の分裂からして、西洋の封建関係は、日本の場合などと違って、いきおい契約的な性格をおびてくる。
12世紀はローマ法が復興し大いに発展する時なのです。ローマ法が復活しますのは、法王権が自らの権利根拠を探し出すために色々な法源を探し求めていた。その中にローマ法の中で最も重要な『パンデクテン』、これはローマ法の注釈書であり、ローマ法の原理が最も詳しく書いてあるものですが、それがボローニャで発見されたということなのであります。
乃木大将の「忠臣は二君にまみえず」という封建倫理
西洋では全くその逆であった。つまりたくさんの主取りがいた。二股武士どころではない、ひどい場合には60人もの主君から知行を得ていたという例さえあるわけですからね。
Ⅹ 大学と学問 自由な思索の展開 今道友信
3種類のスコラ
・宮廷の貴族を教育する学校
・司教座聖堂に付属している学校
・修道院の附属学校
ボローニャ、パリ、それからモンペリエ、サレルノ、ナポリというところなどは皆12、3世紀にできている大学です。オックスフォードも12世紀にできています。
スコラと言うと何らかの意味で国家的と言いますか、地方的な色彩が強い。これに対しまして大学はそれぞれの地方から出てきた人が地方的な特色を失うことなしに、しかし、国際的な協力のもとに真理を研究するという性格を備えていたのです。
12世紀の学者であるアベラールは多くの書物を研究してみると、その中に教会において「権威」と言われて尊重されている学者たちの立てた説の間に矛盾が多いということに気づきました。その矛盾を理解するために、どう解決したらいいかという手順を秩序立てました。
1 まずテキストが損傷されていないかどうかを調べてみる。
2 それから著者自身が後になって言い直したり、あるいは訂正したりしている事実があるかないかどうかを調べる。
3 ある時代に禁止令が出ているかどうかということがないだろうか
4 単語なり文章なりが多義性を持ってるのではないか
これらの文献的な操作でも解決しない場合
5 問題がなお解決しない時は、比較してみて論理的に強い方を取ろう。
6 それでも自分に納得ができなければ、権威でも常に誤謬から免れることはありえないのだからして、必ずしも論理的に承服できないことがありうる、ということを認める。
そして思弁、すなわち精神の自由な判断に従って自分で選び取るか、自分で考えよ
(SNS などでやたら情報に溢れた現代でも、応用出来るような手順ですね)