文藝別冊 KAWADE夢ムック
真夜中の太陽は輝き続ける
河出書房新社 発行
2017年8月30日 初版発行
マージナリア 2006年の追悼文に寄せて 亀山郁夫
夥しい情報の渦の中で、人間はもはや狡猾さを恥とみなすことがなくなり、破廉恥が法を超えてまかり通る時代になった。
世界各国の共産主義者たちの子弟たちが集うソビエト学校は、子供たちにとって楽園だった。
その楽園の記憶と、同じ旧共産主義国家が1990年代に経験した悲惨な地獄を二重写しにして生まれた作品が『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』なのである。
長い間外国にいた人で、のちになってすばらしい作品を書いた人、例えば須賀敦子とか、みんな異文化の中で格闘しながら、もちろん第二言語としての外国語は十分習得されているにもかかわらず、日本語に対する渇きというものがあって、それが表出して素敵な日本語になる。
さらに思い出すこと 沼野允義
アルバイトがアルバイトを紹介する法則
日本語の翻訳のアルバイトが辞める時、自分より下手な人を連れてくる。
これは日本におけるロシア語通訳も同じだ。
後任が自分より上手だと、自分の評価が下がってしまう。
「私のこの座談会での役割は、小林秀雄を無知蒙昧な野蛮人がどう読むかという一種の動物実験に寄与することだと思いますが(笑)、確かに今回ほぼ初めて主要作品を読みました。それで、レトリックに過ぎない文章があまりに多いのに驚いた、というより呆れました。」
自分が認めないもの、面白いと思わないものは、たとえインテリや権威がいいと言っても、ばっさり否定できる。
エ勝手リーナがいた頃 ガセネッタ横田佐知子×シモネッタ田丸公美子
ヨーロッパ文明の土台は何といってもギリシャローマ。必然的に遠いイギリスで使われていた英語には、ラテン語圏ほど複雑な修辞法は発展しなかった。
このあいだロシアに行ったとき、若者がぜんぜんウォッカを飲まなくて驚いた。
親の世代がアル中ばかりだと、こうはなるまいって思うのでしょうか。
激しくて繊細だったひと 井上ユリ×宇野淑子
万里さんの葬儀の時、蓋を閉めていないお棺の上にものすごい大きな、背中の分厚い人が覆いかぶさっていた。
もしかしたら万里さんに隠している男がいたのかと思ったが、そうじゃなくて、それは佐藤優さんだった。
佐藤優さんと万里さんとは本当に男女の域を超えてものすごく信頼しあった友達だった。
ソビエトが崩壊するとき佐藤さんは外務官僚としてモスクワにいて、万里さんもTBSの通訳者としてモスクワにいた。
その頃から交流もあって、本当に厚い友情だったんだと。
だからすごい神々しいものを見たような気分になった。