はじめて学ぶ西洋古代史 第Ⅰ部ギリシア

はじめて学ぶ西洋古代史 表紙

 

はじめて学ぶ 西洋古代史
長谷川岳男 編著
ミネルヴァ書房 発行
2022年10月30日 初版第1刷発行

はじめて学ぶ、と題していますが、内容はけっこう高度だと思います。

第Ⅰ部 ギリシア
第1章 アケメネス朝ペルシア 世界帝国とギリシア諸都市
前6世紀半ばにイラン高原に興ったアケメネス朝ペルシアは大帝国であった。都市を基本単位としたギリシアの国家とは、非対称とならざるを得ない関係だった。

 

第2章 スパルタ その神話と実像
スパルタ人自身が、新たに始める制度などをあたかも遥か昔からあったような装いでなすという、伝統の創造を盛んに行っていた。
ローマ支配下ギリシア人が文化の面で過去の栄光を呼び戻そうとする動きの中、スパルタもその傾向が強く、それまで広く認識されていた、現実とは異なるいにしえの時代のイメージに合わせて、自らの社会を改造した。p26

嬰児遺棄や共同食事、戦場での臆病が処罰の対象などはアテナイなどと同様だった。
他のポリスとの違いは、生産活動をヘイロータイ(隷属農民)に依存し、市民の生活に公的な介入もして秩序の維持を徹底させたこと。p40

 

第3章 アテナイ 民主主義、文化・芸術の都
民主政という制度に限って言えば、一時期のフィレンツェのような例外をのぞけばアテナイ民主政の消滅後は存在せず、アメリカ独立革命およびフランス革命の時代まで研究の対象ともされてこなかった。そして、そうした研究においても、一般に民主政は無秩序で無政府的であると考えられ、あるべき国制のモデルとして挙げられたのはアテナイよりもスパルタの国制であった。
アテナイ民主政の実際の制度について関心が向けられ、研究対象とされるようになったのは、19世紀に入ってからのことである。p39

 

第4章 古代ギリシアの宗教 神々と人間のコミュニケーション
古代ギリシアの宗教の特徴・性格
・教義を記した教典といったものは存在しなかった
・宗教上の専門家・組織の不在
・個人の内面性よりも集団活動に重点が置かれた
・互酬的性格

 

第5章 マケドニア バルカンの「巨人」
マケドニア史の研究が本格的に取り組まれるようになったのは、ここ数十年。なぜ、かくも遅々としたものだったのか?
・同時代のマケドニアの人々の書いたものがほとんど残っていない
・近代以降のマケドニアの政治的複雑さに起因する発掘調査の停滞
アレクサンドロスという存在があまりに巨大だった。圧倒的な関心がアレクサンドロス個人に集中した。

フィリポス2世の「鬼才」なくしてギリシア征服があり得なかったのは言うまでもない。しかしその「成功」の要因としては、マケドニア王国が広く肥沃な国土や木材をはじめとする豊かな天然資源といった大きなポテンシャルを有していた。p97

 

第6章 プトレマイオス朝エジプトとヘレニズム世界 交錯する権力・伝統・文化
ヘレニズム時代
西アジアギリシア人としての自己認識を持ったマケドニア人たちによって支配され、やがてローマの版図に組み込まれていくまでの時代
プトレマイオス朝エジプトはヘレニズム諸王国の一つ

 

第7章 ギリシアの連邦 創意に満ちた共同体
連邦とは、共通の文化を持つ人々から構成され、加盟ポリスのそれとは異なる、独自の政府や制度を有した共同体
ギリシア本土にはボイオティア連邦、アイトリア連邦、アカイア連邦などが成立
現代の用語では、連邦、あるいは同盟や連合とも表される。

一般的に市民権の権限は、その共同体での参政権のような政治的権限と、その共同体での土地所有権や通婚権などの私的権限に大別できる。
私的権限は連邦規模で行使できた一方、政治的権限は一つの加盟ポリスでのみ行使できたというのが通説p137

古代ギリシアの歴史は、ポリスだけでなく、連邦の歴史でもあった。古典期にはアテナイやスパルタと異なる方法で地方を統合し、ヘレニズム時代にはその地方を越えて拡大して、一定の存在感を示し続けた。p139