羊皮紙に眠る文字たち再入門

羊皮紙に眠る文字たち再入門 表紙

 

羊皮紙に眠る文字たち再入門
黒田龍之助 著
白水社 発行
2022年1月30日 発行

ロシア語など、いわゆるスラヴ語派などの言語について、著者の体験を含め、ユーモラスに語っているエッセイ集です。

二十世紀末、第二外国語の不人気ナンバー3はアラビア語、ロシア語、韓国語だった。この三つに共通するのは「見知らぬ文字を使っている」という点だった。
でも知らなかったことが分かるようになるのは、喜びではないか。

 

第i章 スラヴ語学入門
それぞれの言語がどの文字を採用するかは、言語学にみれば全く恣意的、つまりどれでもよいはずである。ロシア語をラテン文字で書き表そうというのならば、それはそれで可能である。ところが実際には文字というものはそれぞれの言語を使う地域の文化、特に宗教と深い関わりをもっている。どの宗教もその教えを伝えるためにはそれを書き残す必要があるわけで、文字はそのための重要な役割を果たすのである。
もっともインドネシアやモンゴルやトルコなどの例外はある。この場合、文字は宗教ではなく政治体制と関係がある。p29-30

 

ロシア人の名前は「名」+「父称」+「姓」という三つの部分から成る。
父称は父親の名前に接尾辞をつけてつくられる。
父称を使うということは、文化人類学的にはロシアが父系社会であったことを示すのだと思う。そんなことよりも実際困るのは、父親がいない、あるいはよくわからない子供が生まれてしまった時である。p54-55

新『現代ロシア標準語辞典』や『11世紀ー17世紀ロシア語辞典』、『18世紀ロシア語辞典』、『スラヴ諸語語源辞典』、『古ベラルーシ語辞典』、『標準セルビアクロアチア/クロアチアセルビア語学習辞典』など、完結していない「未完の辞典」を持っている筆者p59-60

 

第ii章 中世スラヴ語世界への旅

教会スラヴ語
読み書きにしか使わない文章語。その中でももっぱらキリスト教文献に使われたため、名前に「教会」と付いている。12世紀以降に書かれた言語。それより前の言語は「古代スラヴ語」という。p75-76

単数や複数で無い「両数」または「双数」
特に《2》を表すための数
現代ロシア語には無いが、中世のロシア語には存在した。
また現代でも、スラヴ諸語の中で、上・下ソルブ語スロヴェニア語には両数が残っている。p85-86

 

筆者がミンスクベラルーシ大学で、ベラルーシセミナーに参加していた時の、ハレールカ(ロシア風にいえばウォッカ)飲みながらの話
あるベラルーシ人曰く
ロシアは古代ルーシ伝統から離れたところで、モスコーヴィヤ(モスクワ公国)に過ぎない。
本当のルーシと言えるのはウクライナ
ベラルーシは、実はリトアニア。今はバルト系の民族が住んでいるが、ベラルーシの心の故郷といえばやはりヴィリニュス。ベラルーシの歴史にとって、リトアニアは重要な舞台で、ヴィリニュスこそはベラルーシのもう一つの首都 p111-112
(酒の席とはいえ、複雑な国民感情が垣間見えます)

 

古い時代のロシアでは、白樺の皮を剥いで、紙の代わりに使っていた。
1951年、ノヴゴロドという歴史ある町で、文字が刻みこまれた白樺の皮が見つかった。今日に至るまで発掘作業が続けられている。これを白樺文書(もんじょ)という。
木の皮にインクや木炭で書かれることは珍しくないが、この白樺文書は先の鋭い筆記用具で引っかくようにして文字を記しているのが特徴的 p113-114

 

古代スラヴ語
文献の言語、つまり書かれたことば
9世紀後半から11世紀末の言語とはっきりしている。
なぜはっきりしているのか?そういうふうに決めたから。その期間だと規定したから。 
なぜ9世紀後半なのか?この頃にスラヴの地で文字が考案されたから。もっとも残っている文献のほとんどは11世紀のもの。p124-125

第iii章 文字をめぐる物語

 

第iv章 現代のスラヴ諸語
チェコ語は他のスラヴ諸語をいくつか齧った者から見ると、不思議な言語。
たとえば軟変化タイプの形容詞。男性、女性、中性とどの名詞と結びついても同じ形。
スロヴァキア語はチェコ語に似ているが、スラヴの言語らしく形容詞は名詞の性に合う。p197-198

ブルガリア語の特徴
南スラヴ諸語の一つ
語彙についてはロシア語に近い
文法構造はロシア語と著しく異なっている。
ブルガリア語の名詞類は格語尾がなくて、後置冠詞があり、また動詞は時制や法に多くの形態を持つ。p201

追章 ギリシャ語通信