柳田國男とヨーロッパ 口承文芸の東西 第1部 柳田のヨーロッパ口承文芸研究

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柳田國男とヨーロッパ 口承文芸の東西 表紙

 

柳田國男とヨーロッパ
口承文芸の東西
高木昌史 編
2006年3月31日 初版第1刷発行
三交社 発行

成城大学民俗学研究所に保管されている柳田國男の洋書文献に逐一あたりながら、口承文芸における柳田とヨーロッパの関わりに本格的に取り組んだ、比較研究ハンドブックです。

第1部 柳田のヨーロッパ口承文芸研究(柳田文庫調査)
日本に口承文芸学を樹立するに際して、柳田が蔵書中の洋書文献をどのように活用したかを、実際に彼が用いた書籍を手がかりに調査した報告集。

a 国別
1 ドイツ
文学青年として若き日を過ごした柳田が愛読したヨーロッパの詩人はハイネであった。
柳田は『流刑の神々』(柳田は『諸神流竄記』と呼んでいる)について集中的に言及している。

2 イギリス
すでに『遠野物語』などを著していた柳田に、イギリスの民俗学協会と、その創始者である民俗学者ジョージ・ローレンス・ゴムについて教えたのは南方熊楠とされている。

ゴムの著書の書き込みから判断すると、柳田がイギリスの民俗学から基本的な枠組みと理論をまずは取り入れた。
しかし古い伝承や習俗などが、ゴムの言う単なる「残存物」ではなく、現代においてもなお生き続いていることにこそ意味を見出だしたのではないか。そして、そうした「民俗」が生きている文化として日本をみようとしたのだと考えられる。

3 フランス 
柳田のフランス語の書物への読了記録が始まるのは、1921年国際連盟委任統治委員として一度目の渡欧をした年だった。

ベディエ、ユエ、ペロー、サンティーヴ、セビオ、ヴァン・ジュネップなどの著作から影響を受ける。

4 その他(フィンランド/ロシア)
ヨーロッパの口承文芸研究の発信源は意外にも北欧の国フィンランドである。重要な機関誌がそこから発行されたからだ。

b ジャンル別
1 昔話 
柳田はまず昔話研究の中心人物をグリム兄弟に、そして当時の「学問発達の中心」をドイツに見ていた。p63

2 伝説 
(1) イギリス
イギリス、特にケルト文化圏の民間伝承を、他のヨーロッパの国々と比べた場合、際立つ特徴のひとつは、妖精やエルフが登場する伝説や民話の豊かさにあるといえる。
(2) ドイツ
柳田いわく、昔話は動物の如く、伝説は植物のようなもの
昔話は方々飛び歩くから、どこに行っても同じ姿を見かけるが、伝説はある一つの土地に根を生やしていて、そうして常に成長して行く

3 聖者伝 
柳田の関心が向けられているのは、高僧・聖者個人やその伝記ではなく、聖者にまつわる伝説、あるいはむしろ逆に伝説の中の聖者、伝説と聖者の関係である。
様々な不可思議な出来事を弘法大師のような非凡な人物に帰そうとする民衆心性に柳田の関心が向いていた。
それに対してキリスト教の聖人伝は、伝説の形成過程の探求を主眼とはしておらず、語られる聖人の生涯とその業績によって信仰者の模範像としての生き方を示し、さらには神の崇拝へと誘うことを目的としていた。

柳田が伝説の特徴として挙げていること
・それが本当にあったこととして信じられている
・石、井戸、樹木などの具体的な物やしばしば地名や人名と密接に結びついている
・伝説には決まった様式がなく、語り手の都合によって長くも短くもなる

4 民謡
柳田文庫の中には、三菱銀行からの利息計算書を栞代わりにはさんでいる本があった。
(どうでもいい話ですが、なんとなく面白いので書き留めておきます)

クラッペの本への書き込みから、柳田の民謡に対する考察を検証

5 諺