ジャン・コクトー作 堀口大學訳 「耳」Cannes V

このところ、太田和彦さんの居酒屋探訪の番組を、特に居酒屋好きでもないのですが、よく観ています。
太田さんの独特の語り口に、はまってしまったのかもしれません。
先日、貝料理専門の居酒屋に行った時、テーブルの上の貝殻に
耳を当てて、こうおっしゃっていました。
「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」
さらっとこういうフレーズが出てくるのが羨ましいですね。さすが資生堂出身(笑)。
改めて調べてみると、ジャン・コクトーのCannes Vという詞を堀口大學が「耳」という題で訳したものでした。
原文は

Mon oreille est un coquillage

Qui aime le bruit de la mer

となっています。シンプルなフレーズです。
まず耳を貝殻にしたコクトーの発想の勝利です。
そしてそれをきっちり七五調にまとめた、堀口大學の勝利でもあります。
原文では、Cannes Vという一見無機質な題名も好きです。カンヌでの6作の連作の五番目だそうです。
南仏のカンヌというエリア自体も魅力的なのですが、堀口大學により、世界のあらゆる海辺、海岸へと普遍性を与えられた、という気もします。
この詩のおかげで、そこいらの海岸でも、もちろん居酒屋でも、貝を拾って耳にあてることがサマになります。
あとついでながら、Cannes Vという題名から、イギリスの王様で、パリのホテル名でもある、George Vを思い出してしまいました。
泊まったことはないのですが、ホテル内の一室での催しに参加したことを思い出しました。