オランジュ 村の眺め

ひととおりガイドブックに載っていた所を見学し終わり、どこに行こうかということになる。
結局古代劇場の裏にあるサントゥトロップの丘に登ろうということになり、バスターミナルのある東側から登る。
この日は天気もよく、青空が広がっており、眺めを楽しみたかったからだ。
崩れかけた道を登る。あまりきっちりとは整備されていないみたいだ。また、木々も多く、物陰も多いため、一人で行くには昼間でも少し危ないかもしれない。
展望台に着く。フランスツーリストクラブ寄贈の丸いテーブルがあり、ここから見える山々などの詳しい説明をしている。
そのような説明が不要なほど、眺めは理屈なく美しかった。
平原の中に住宅があるが、合間の緑も多く、見苦しくない。
そして遠くになだらかな山々が見える。
公園には松の木が生い茂っており、まるで印象派初期の画家、バジールの「村の眺め」を思い出させる。
絵の場所はモンペリエ近郊で、プロヴァンスより少し西だが、近景の松の木、そして遠景の家の色など、似通っている。個人的には、彼の一番の作品だと思う。
ジールは、マネらと行動をともにし、絵画に励むが、祖国のため普仏戦争に志願し、戦死する。
勇敢に戦って果てたバジールと比べ、モネなどほかの画家はイギリスに疎開し生き延びた。生き方としてどちらが正しいか、あるいは美しいかは個人それぞれの価値観によるだろう。ただ、作品は生きてさえいれば創作する事はできる。バジールの早い死は惜しまれてならない。
「村の眺め」には、丘から眺めているような風景のほかに、モデルがいる。いたいけな乙女が、大きい瞳で、こちらを見つめている。それが本当に良い。
以前、NHK教育の世界美術館で、マルモッタン美術館を取り扱った事があったが、そのとき、マルモッタンの正面に彼女のポスターが掲げられているのを発見した時には感激したものだ。
秋の青空の下、風景を見ながらのんびり散策する。
またこの丘には大きな白い像がある。マリア様だ。やはり南の方はマリア信仰が強いのだろう。
青空の下、マリア様は、オランジュの街、そして遙かかなたまで、優しいまなざしで眺めていた。